
プリノソロジカル(疾病前分類)健康評価の為のテレメディカルシステム
O.I. Orlov1, V.I. Pougatchev2, A.P. Berseneva1, A.G. Chernikova1, R.M. Baevsky1, Y.N. Zhirnov2, E.N. Gribkov2, O.N. Isaeva1.
1 State scientific center – Institute for biomedical problems, Russian academy of science, Moscow, Russia, olegtm@bk.ru 76A Chroshevskoye sh, 123007, Moscow, Russia
2 Biocom Technologies, Poulsbo, USA, vpougatchev@biocomtech.com 20270 Front Street NE, Suite 203, Poulsbo, WA 98370, U.S.A.
概要
「Mars-500」プロジェクトの枠組みの中で、2009-2011年にかけてサテライト調査が実施された。プリノソロジカル評価はプリノソロジカル診断の一部であり、人間の健康状態の「通常」から「異常=疾病」への変化を科学的、実践的に研究する新しい分野である。その目的は、疾病リスクの可能性を評価する事である。この論文では、ハートウイザードをベースに健康評価を行なうテレメディカルシステムについて説明する。
序論
プリノソロジカル評価はプリノソロジカル診断の一部であり、人間の健康状態の「通常」から「異常」状態への変化を科学的、実践的に研究する新しい分野である[1]。プリノソロジカル状態とは、「健康」と「異常=疾病前」の間で、ホメオスタチス維持に必要な調節系が通常よりも高い緊張状態を言う。プリノソロジカル・コントロールは、人間の健康状態をモニターし、様々な環境に順応する上での「コスト=代価」と疾病リスクを評価するものである。心拍変動解析は、宇宙医学において健康評価の為に使われたのが最初であった[2]。今日では、心拍変動解析から一般的健康リスク、心血管系の状態、慢性的疾病状態、加齢、ストレス、フィットネスなど々、健康状態に関する有益な情報が得られる事が明らかになっている[3,4]。この論文では、「Mars-500」のサテライト調査の為に、被験者個々人に対してプリノソロジカル・コントロールができるよう特別に修正された「ハートウイザード」を使った結果について説明する[5]。
方法
・被験者
米国(ワシントン州Poulsbo市)から4名(男子)、カナダ(トロント市)から6名(男子)のボランティアが参加。その内5名が45-52歳、5名が21-25歳。それぞれが自宅で毎週末1回のテスト行った。全ての被験者は所定の同意書に署名した。結果として、212のテスト結果を分析した(時には被験者がテストするのを忘れた場合があった為)。
・測定方法
このプロジェクトでは、「Mars-500]プロジェクトの為に作られたBiocom「ハートウイザード」修正版を使用した。ハートウイザードは、「健康とフィットネス」の「評価と管理」の為のツールである(図1)。ハートウイザードは、簡単なセンサーとWindowsをベースにしたソフトウエアで構成される大変使いやすい機器である。ハートウイザードは、被験者の健康状態とその長期的変化に関して非常に有用な情報を提供する。そのコンセプトは、心拍変動として知られる心拍リズムの変化を基礎にしている。ハートウイザードのテストは、健康とフィットネス評価に関する複数の内容から構成されている。又、クラウドをベースにしたクライアント-サーバーテクノロジーを使い、遠隔でのテストが行える。ユーザーはPCにソフトウエアをインストールし、PCのUSBポートに接続されたセンサーを使ってテストを行う。測定データはハートウイザード・データセンターに送られ、解析結果が保存される。テスト結果とそれまでのテスト結果履歴は、それぞれの所定のグラフで表示され、ユーザーのPC上で観察する事ができる。
テスト結果の評価には、宇宙医学で開発された、心拍変動解析を使った疾病リスク評価の為の新しい方法論的アプローチが使われた。この場合の「順応レベル」は、「機能的備蓄」と「ストレスレベル」の2つの指標で測定される[6]。健康リスクの量的測定は、自律神経バランスが通常状態から著しくシフトし、異なっている状態を意味するプリノソロジカル(疾病前分類)およびプリモービッド(病前)状態の確率的予測である。

図1.ハートウイザードを使った健康評価スキーム
結果と考察
テスト結果は、心拍変動指標としての自律神経バランスが、加齢により高い感度でシフトする事が確認された。自律神経調節における副交感神経活動の減少は、リサーチに参加した高い年齢層の方が若い年齢層に較べて大きく(pNN50=7.5±0.9 % 対 35±0.7 %)、交感神経活動の増加は高い年齢層が若い年齢層に較べて大きかった(ストレス指標 =167.3±12.8 c.u. 対 35.72± 5.4 c.u.)。確率論的アプローチによると、高い年齢層が通常に機能する確率は若い年齢層に較べて減少し(61±3% 対 97±5%)、疾病前機能状態が増加する確率は、高い年齢層が若い年齢層に較べて増加した。この事から我々は、健康にマイナスの要因を経験する時、健康リスクが増加すると考えた。
この考えは、個々のデータ解析結果で確認された。図2に被験者の一人の調節機能のダイナミックな状態が示されている。健康スナップショット、深呼吸テスト(DBT)、健康問診(これまでの肉体的運動履歴、睡眠の質、既往症、感情状態、ストレス等)のデータが比較、評価された。この被験者の機能的体調偏移は主に職場でのストレスと呼吸疾患に関係しており、疾患前状態の確率が増加している(pPrenosological)。この期間、被験者が通常状態である確率は減少している。いろいろな要素により機能状態が低下しているだけでなく、疾病後の治癒と回復プロセスにおいても、この事は観察できる。自律神経バランスの変化が、呼吸疾患症状が現われる前の疾病発現時点に見られる事は、重要である。

図2.「Mars-500」のサテライト調査期間中の健康状態の確率的予測(1-感情的ストレス、2-呼吸疾患)
深呼吸テスト(DBT)データ解析結果は、この被験者の急性呼吸障害発現前と発現中の「機能的備蓄」が低下し、同時に負荷に対する通常の反応も低下したが(負荷中の心拍変動の増加低減)、他方では、感情的ストレス後の深呼吸テスト中の心拍変動増加は十分であった事が明らかにされた。
感情的ストレスと呼吸障害に対する反応において判明した違いは、ストレス反応後の病前状態分類の試みを可能にする事から、個々のプリノソロジカル健康モニタリングの為に有用である可能性がある。この問題は、今後の研究課題であろう。
結論
テレメディスンテクノロジーは、遠隔モニタリングと現在の進んだ健康評価法を使って、医療介護の質を大きく改善する事ができる[7]。テレメディスンによる個々人のプリノソロジカル健康評価は、将来的に期待できる分野の一つである。
テストデータ解析結果は、自律神経バランスの変化が種々の要素(気候、感情、罹患など)に密接に関連しているとの仮説を支持している。テスト結果は、北米地域(カナダおよび米国)での毎週1回のプリソノロジカル評価の方が、他の地域で行なわれた毎月1回の評価に較べて、健康状態の異常発生に先立って自律神経バランス異常を検知できる事が証明された。この方法は又、予防健康管理の効果をモニターするのに役立つ可能性も示唆している。
文献
- M. Baevsky and A.P. Berseneva.,“Introduction in Prenosological Diagnostics”, Slovo, Moscow, Russia, 2008, 220 p., (in Russian)
- I. Grigoriev, O.I. Orlov, V.A. Loginov, D.V. Drozdov, A.V. Isaev, Y.G. Revyakin and A.A. Suhanov, “Clinical telemedicine”, Moscow, Russia, 2001, 111 p., (in Russian)
- www.iki.rssi.ru/mars500
- “Heart rate variability. Standards of measurement, physiological interpretation and clinical use”, Circulation, Vol. 93, 1996, pp. 1043-1065
- M. Baevsky, G.G. Ivanov, L.V. Chireykin et al, “Heart rate variability analysis using different elecrocardiographical systems”, Vestnik aritmologii, 24, 2001, pp. 67-95 (in Russian)
- Baevsky, A. Chernikova, I. Funtova and J. Tank, “Assessment of Individual Adaptation to Microgravity during long term space flight based on stepwise Discriminant Analysis of Heart Rate Variability Parameters”, Acta Astronautica, 69, 2001, pp. 1148-1152
O.I. Orlov, “Telemedicine in management of medical care”, Slovo, Moscow, Russia, 2002, 39p., (in Russian)
出典資料:Biocom社
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